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岡山大学は7月29日、新型コロナワクチンを追加接種しても中和抗体の産生が全く誘導されない、あるいは殆ど誘導されない70歳以上高齢者が1割程度存在するとの研究結果を発表した。岡山大学研究推進機構医療系本部の中山雅敬教授は本誌取材に応じ、「高齢者施設でのクラスターは、今後コロナ対策を考えた上で極めて重要」と指摘し、「第7波」で急増するコロナ感染者への対応に警鐘を鳴らした。また、「ワクチン接種後に抗体価の上がらない入所者をクラスター発生時の際の積極的治療対象者としてトリアージしておくことが必要だ」と強調した。 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)総合内科学講座の大塚文男教授、萩谷英大准教授、岡山大学研究推進機構医療系本部の中山雅敬教授らのグループは、医療従事者、特養・老健施設入所者、職域接種対象者の合計約1900人の抗体価を測定したもの。抗体価測定には免疫蛍光測定装置Mokosensor Q100を利用し、指先穿刺による全血で抗体価を評価した。 ◎抗体価のレスポンスのない被験者が高齢者施設入所者で「1割程度」いる その結果、大半の被験者の抗体価がワクチン3回目の接種後直ちに上昇したが、70歳以上高齢者には抗体価のレスポンスのない被験者が高齢者施設入所者で1割程度いることが明らかになった。一方、医療従事者にはレスポンスが弱い人は確認されなかった。さらにワクチン3回目の接種前後でクラスターが起きた施設(入所者100人、感染者80人、入院20人、死亡10人)について、クラスター発生およそ1カ月後に抗体価を測定したところ、中等症・重症化を免れた高齢者の中に、抗体価のレスポンスがない方は一人も確認されなかった。 ◎クラスター発生時の積極的治療対象者としてトリアージしておくことが可能に 中山教授は、ワクチン接種2か月後を目安に抗体価を測定すると、ワクチンにレスポンスのない高齢者を炙り出すことが可能になると指摘。抗体価のあがらない高齢者をクラスター発生時の積極的治療対象者としてトリアージしておくことが可能になると強調した。また、こうした対応で、「早期の治療を行い、長期入院や死亡者数の増加を防ぎ、医療資源の有効活用につなげることができるとの見解を示した。さらに、今回の研究で、抗体価測定に指先穿刺を用いたことに触れ、「認知の下がっている高齢者が多い施設においては、静脈血を採血しての抗体価測定は現実的ではない」とも述べ、「微量の指先全血から抗体価を測定することによって比較的簡便に入所者の抗体価測定が可能なことを示した」と強調した。 ◎今後は糖尿病やリウマチ患者の抗体価の測定を進める 今後の研究について中山教授は、糖尿病やリウマチ患者の抗体価の測定を進めるほか、ワクチン接種後のノンレスポンダーの血液検査や尿検査の結果を収集し、mRNAワクチンに対するレスポンスを妨げるファクターの同定を行う考えを明らかにした。 なお、同研究は三菱総合研究所による内閣官房「ポストコロナ時代の実現に向けた主要技術の実証・導入に向けた調査研究業務」の一環として行われた「ポストコロナ時代の実現に向けた主要技術の実証・導入に係る事業企画」のサポートを得て実施した。研究成果は英国感染症協会の学術雑誌「Journal of Infection」(7月11日)に掲載されている。

厚労省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課は7月30日、2021年度「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業」の報告書を公表した。MR、MSL等による延べ 20 件の医薬品がモニター医療機関からの報告(対象期間9か月)で疑われ、複数の違反疑い事例を含めると項目数は延べ 26 件となった。項目別にみると、「エビデンスのない説明を行った」(10 件、38.5%)が最も多く、次いで、「他社の製品を誹謗・中傷する表現を用いた」(5件、同19.2%)だった。違反が疑われた医薬品の情報入手方法は、「製薬企業担当者(オンライン・Web グループ面談(院内))」が 8 件(違反が疑われた延べ 20 医薬品の 40.0%)で最も多く、次いで「製薬企業担当者(オンライン・Web 個人面談)」(5件、同25.0%)。コロナ禍を反映して、MR等の「オンライン面談」によるシーンでの違反が目立っている。 販売情報提供活動監視事業は、MR、MSL等による販売情報提供活動を対象としたモニター調査及びモニター以外の医療機関からの情報収集、医療関係者向けの専門誌・学会誌、製薬企業ホームページ、医療関係者向け情報サイトを対象に調査を実施したもの。モニター調査の実施期間は21年度中の9か月間とした。 疑義報告が行われた延べ医薬品数は28件で、うち違反が疑われた延べ医薬品数は20件、延べ違反疑い項目数は26件だった。なお、前年20年度の調査は対象期間が1か月短い8か月間で、疑義報告が行われた延べ医薬品数は21件、うち違反が疑われた延べ医薬品数は14件、延べ違反疑い項目数は17件だった。 ◎医薬品種類別では、腎性貧血治療薬、片頭痛予防薬、糖尿病薬の順 違反が疑われた医薬品の種類を報告の多かった順にみると、①腎性貧血治療薬、②片頭痛予防薬、③糖尿病薬、④不眠症薬、⑤抗ウイルス薬、⑥化膿性疾患用薬、⑦血液凝固阻止薬、⑧心不全治療薬、⑨その他代謝性医薬品、⑩多発性硬化症治療薬、⑪皮膚炎用薬、⑫関節機能改善薬、⑬抗がん剤-となっている。 ◎違反疑いの情報入手「製薬企業担当者(オンライン・Webグループ面談(院内))」がトップ 違反が疑われた事例の情報入手方法(複数回答)は、トップが「製薬企業担当者(オンライン・Webグループ面談(院内))」で40.0%、第2位は「製薬企業担当者(オンライン・Web個人面談)」で25.0%。次いで、「製薬企業担当者(直接対面)」と「製薬企業担当者(メール・電話)」がともに15.0%で並んだ。「企業の製品説明会(Web によるものを除く)」は10.0%、「企業のホームページ」と「医療関係者向け情報サイト」はともに5.0%。逆に、「Webセミナー」、「医療関係者向け専門誌・学会誌」からの報告は無かった。 一方で、2019年10月に設置した「医療関係者向け医療用医薬品の販売情報提供活動に関する調査窓口」に寄せられた「一般報告」の疑義報告は、延べ医薬品数で8件、うち違反疑いの医薬品数は7件、延べ違反疑い項目は11件だった。 ◎腎性貧血治療薬の事例 競合他剤と比較して血栓塞栓症リスクが低いと捉えられる説明 モニター報告から違反疑い事例をみると、最も報告の多かった「エビデンスのない説明を行った事例」は、腎性貧血治療薬の事例で、実際の臨床試験で血栓塞栓症が少ないという事実がないにもかかわらず、「緩徐なHb値上昇が特徴であり血栓塞栓症リスクが低い」と発言し、競合他剤と比較しても血栓塞栓症リスクが低いと捉えられるような説明を行ったというもの。企業担当者による説明が違反疑いとして報告された。 ◎片頭痛予防薬のオンラインヒアリング 他社製品を誹謗 上司同席で組織的違反の疑いも また、2番目に報告数の多かった「他社の製品を誹謗・中傷する表現を用いた」という事例は、片頭痛予防薬についてオンラインヒアリングを行った際に、製薬企業作成の当該薬剤を含め同効薬3製品の比較表が画面共有された上で、企業担当者から説明があったというもの。「当方から質問をしていないにもかかわらず、企業担当者からは、(他社製品の)A剤は初回倍量投与しなければいけない、B剤は便秘が多いと、他社製品を誹謗し自社製品の優位性を訴える説明があった」というもの。加えて、企業担当者の上司も同席しており、組織的にこのような説明を行っている可能性をうかがわせる内容であったと報告している ◎SGLT2阻害剤の説明 承認外の使用を促しているように受け取れる このほか「承認外の使用を促しているように受けとられる説明を行った事例」では、SGLT2阻害剤について、医療関係者からの求めがないのに、「SGLT2阻害剤は左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)に対する適応はないが、有効性が論文で報告されている。心不全患者は腎臓が悪いことも多く、本剤に慢性腎臓病が適応追加されたため、HFpEFの患者に対しても慢性腎臓病の病名をつけて処方がしやすくなったと医師が言っている」との言及があったというもの。「承認外の使用を促しているように受け取れる説明であった」と報告されている。
2022.07.29

日本医薬品卸売業連合会(卸連)の鈴木賢会長(バイタルネット代表取締役会長)は7月28日、理事会後の会見で、「薬価は全国一律だが、離島、過疎地に配送するコストは、都市部より明らかに高い。低薬価品は、流通コストを賄えていないのが実態だ」と述べ、流通上での不採算品目に問題意識を表明した。8月中にも厚労省の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」が立ち上がることを踏まえたもの。鈴木会長は、「医薬品卸が業務面、経営面でも厳しい状況に置かれていることや、薬価が下がり続ける現在の薬価制度が改革の時期を迎えていることなどに踏み込んで、将来に向けて前向きな議論が行われることに期待する」と強調した。 ◎カテゴリーチェンジで不採算品増加も「流通に特化した仕組みはない」 スペシャリティ医薬品の台頭とジェネリックの数量増加によるカテゴリーチェンジが、医薬品流通に大きな影響を及ぼしている。鈴木会長は、「例えば、ジェネリックになっても管理コストは変わらない。ジェネリックになっても配送回数は減るわけではない。薬価が下がってもコストは変わらない。そのために不採算の製品が多くなっている。不採算品目の再算定の基本的な考え方も求めていかなければならないと考えている」との問題意識を示した。 不採算品再算定など薬価を下支えする仕組みはあるが、「製造ではなく、流通で不採算になっている品目に特化されたことはない」と指摘。「薬価は全国一律だが、離島、過疎地に配送するコストは、都市部より明らかに高い。低薬価品は、流通コストを賄えていないのが実態だ」と述べた。卸連のなかでは、地域やカテゴリーを切り口とした意見が多く出ているという。 ◎山田専務理事 薬価差偏在をどう考えるかという議論はある 調剤チェーンやボランタリーチェーンの台頭などによる、薬価差偏重も議論のポイントとなっている。山田耕蔵専務理事は、「ボランタリーチェーンがそのままどうこうという話は出ていないが、薬価差が偏在しているのではないか、その辺についてどう考えるか、という議論は卸連のなかで出ている」と話した。 ◎くすり未来塾の不採算品に対する提案「卸連としても協力したい」 くすり未来塾が提案した不採算品に対する提案について鈴木会長は、「解消に向けて適切に提案されるのであれば、卸連としても協力していきたいと考えている。連合会としては、受け身、待ちの議論ではなく、産業側の意見を作る必要があると考えている」と述べた。ただ、「医薬品流通産業の形を作り得た段階として卸連として薬価を考える。将来は、これから考えていかないといけない」とも説明。山田専務理事も、「薬価制度の将来のあり方については、有識者検討会に先立ってということまではいま考えていない」と説明した。 23年度薬価制度改革に向けた議論も今秋には本格化するが、「卸連はかねてから、毎年薬価改定については反対している。仮に中間年改定を行うのであれば、2016年の薬価制度抜本改革に向けた基本方針の4大臣合意に立ち返り、関係者の経営実態、安定的な流通確保に配慮し、乖離の大きな品目について薬価改定を行うべきと考えている。調整幅については、薬剤流通を安定させるための調整幅は現在も重要な役割を果たしている」と述べた。 ◎薬価の議論は「医薬品流通産業としてどうあるべきかを考えないといけない」 このほか、IQVIAデータを引き合いに、中国や欧米はプラス成長だとしたうえで、「日本市場だけマイナス成長だ。それでは世界市場との間で乖離があり、医薬品産業の開発地の低下も生じる。産業として中国に抜かれてしまうことは、国民の健康、安全保障ができなくなる、このような恐れもある」と指摘。「いまはガイドラインを遵守することが大事だと思っているが、薬価の議論は医薬品流通産業としてどうあるべきか、考えないといけない」と述べた。
2022.07.29

薬価制度改革をめぐる製薬業界内での議論が始動した。市場実勢価格主義を貫く現行の薬価制度だが、20年間薬価制度が維持されるなかで薬価差の偏重など、歪みも生じている。こうしたなかで、業界内では、市場実勢価格に基づかない新たな仕組みとして、薬価差の出ない仕組みを検討する動きも出始めた。厚労省の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」が8月末にも議論をスタートさせることから急ピッチで議論を進める。 ここにきて市場実勢価格に基づく薬価制度のあり方についての提言などが相次いで示されている。製薬業界は課題認識をすり合わせたうえで、現行の市場実勢価格の改善と、薬価制度の根幹を支えてきた市場実勢価格主義そのものを見直す抜本的な改革との両睨みで検討を進める見通しだ。現行の薬価制度下では、日本製薬工業協会(製薬協)が主張するドラッグ・ラグ(ドラッグ・ロス)再燃への懸念も高まっている。低薬価品目や後発品などを中心に医薬品の供給問題、さらには薬価差の偏重など流通上の課題も浮き彫りになっている。イノベーションの推進や医薬品の安定供給が重視されるなかで、薬価差のない仕組みが必要との考えだ。 ◎新たな薬価制度の提案・実現には少なくとも5年以上要する 直近の課題への対応も 製薬業界は、22年を反転攻勢の年と位置付け、特に中間年改定については「実施の是非を含めた抜本的な見直しが必要」との姿勢を崩していない。一方で、足下の経済の厳しさや、22年度から後期高齢者が団塊世代に入り始めるなかで、医療費抑制の圧力は強まることが想定される。さらに、物価やエネルギー価格の高騰で、国民生活にも影響が出始めている。当初から、財務省や中医協支払側は、薬価差を迅速に国民に還元することを求めているが、毎年薬価改定導入されるなかで、今年はさらに厳しい議論となることも想定される。製薬業界からは、財務省が薬剤総額マクロ経済などを財政審で提案するなかで、こうした導入と引き合いに毎年全面改定の導入を懸念する声もある。薬価制度を根本から見直し、新たな薬価制度の提案、実現には、少なくとも5年以上の時間がかかることから、直近の課題に対応する必要性を指摘する声もある。 ◎現行制度についての改善か? 薬価差のない仕組みか? 厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の安藤公一課長は7月15日、第24回インターフェックスWeek東京で講演し、「市場実勢価主義を破棄することはないと思うが、実勢価方式をベースとしながら過度な薬価差、薬価差の偏在問題については是正する取り組みを進めなければならないのではないか」と発言。議論がスタートする有識者検討会でも、こうした方向で議論が進むことが想定されるなかで、市場実勢価格に基づく現行制度についての改善についてのみ主張を行うべきとの考えもある。 一方で、薬価差のない仕組みは、価格が下がらないことを意味する。製薬業界は、これまでも、社会保障費の実質的な伸びを抑えるための財源は、大半が薬価の切り下げから捻出されていると主張してきた。これは、逆に言えば、薬価差のない仕組みは診療報酬にも影響することを意味する。このため、製薬業界内からも、関係ステークホルダーからの理解を得ることの難しさを指摘する声もあがっている。