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厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課の古江道顕氏は9月3日開催の「2022年度第1回JASDIフォーラム」で講演し、21年度の販売情報提供活動監視事業で浮かび上がった主な疑義報告事例を解説した。報告の多かった片頭痛予防薬におけるオンライン面談時の事例では、「担当者の上司が出席しているにも関わらず他社誹謗が認められたもので、複数施設で報告があがったことから組織的に実施している可能性が疑われた」と指摘した。また、21年度に新薬の発売が相次いだ片頭痛予防薬ということで、「他社製品を誹謗することで自社製品の優位性を説明してしまったところに問題がある」との見解を示し、「競争の激しい医薬品でこそ、コンプライアンスの遵守を徹底して欲しい」と述べ、業界全体に是正を求めた。 ◎“医師が言っている”で承認外使用促すのは問題 21年度監視事業報告では、延べ20件の医薬品に関する情報提供で広告違反が疑われ、違反が疑われた項目は延べ26項目だった。未承認の効能効果や用法用量を示した事例を解説した古江氏は、「“医師が言っている”という情報を伝えることで承認外の使用を促している点が問題だ。承認外の使用に関する情報提供が全て認められていないわけでない。医療関係者から求めがあった場合は、条件を満たす場合に限り情報提供が可能となる。(厚労省・販売情報提供活動がイドラインに関する)Q&Aをよく確認頂きたい」と強調した。 ◎GL違反と言えないまでも、MRの説明が分かりづらく適切な情報提供と言えない データやグラフの恣意的な抜粋・加工・強調・見せ方等を行った疑い事例については、「本剤群とA剤群との間に原著論文にはない群間差推定値が加えられていた事例。これはGL違反とまで言えないとの結論だった。ただ、現場の印象としてMRの説明が分かりづらく、適切な情報提供となるよう教育が必要という主旨で報告書に掲載した」と指摘した。 誇大な表現を用いた疑い事例についても解説。「有意差のみられない資料を使って、日本人でもしっかりと差が出ていると説明し、そこを医療関係者から指摘されると“専門家の言葉を借りて説明”していることが問題。差が出ているという説明をするのであればエビデンスが必要な事例だ」と述べた。有効性のみを強調した疑い事例については、「説明内容は有意差が示された海外での第3相試験結果のみで、有意差を示せなかった国内第3相試験の結果を全く説明しなかった」と指摘。古江氏は、「(同社は)時間が限られていたためという説明を複数施設で行っていたことから、意図的に説明を避けたと考えられる」と明かし、「そもそも情報提供のあり方として、有効性、安全性をバランスよく説明することが大事。国内試験の結果も一言あるべきだった。結果がどうあれ、試験結果があるならば説明すべきとの事例だ」と強調した。 ◎医療関係者からの質問「必要以上に保守的な対応を行うのでなく、適宜適切な情報提供を」 21年度販売情報提供活動監視事業の結果を踏まえ古江氏は、「厚労省としては、医療関係者からの質問に対しては、必要以上に保守的な対応を行うのでなく、医薬品が適切に使用されるよう、医療関係者のニーズに応え、GL等の主旨を正しく理解し、必要な情報について適時適切に提供して欲しい」と製薬業界に対して要請した。さらに、「競争の激しい医薬品でこそ、コンプライアンスの遵守を徹底して欲しい」と求めた。 ◎企業主催セミナー「医師等の講演で不適切な販売情報提供活動が行われる事例もある」注意を さらに、監視事業以外の指導事例として見受けられるものとして、「製薬企業主催のセミナー等で医師等が講演を行い、その中で不適切な販売情報提供活動が行われる事例」があると指摘。「企業主催セミナーによる医師等の講演内容が不適切な販売情報提供活動につながることもあり得るので、そのような認識を持って欲しい」と呼びかけた。

杏林大学医学部付属病院薬剤部の若林進薬剤科長は9月3日の「2022年度第1回JASDIフォーラム」で講演し、販売名変更時に旧製品のGS1コードにシールを貼って、 新製品として出荷している製薬企業があることを問題視した。若林薬剤科長が示した事例は、エパルレスタット錠50mg「VTRS」を発注すると、エパルレスタット錠50mg「ファイザー」屋号の製品の外箱にGS1シールが貼られて納品されるというもの。「処方箋でVTRSと書いてあっても、患者さんの手元にファイザーの製品がわたる。業界では“シール対応”と言うそうだが、中身が違う。これって製品偽装じゃないのか。どうして問題にならないのだろう」と提起した。 この事案をめぐっては、ファイザーからヴィアトリス製薬に製造販売業者等の名称・住所の表示を変更する「お知らせ」が企業側からあったという。お知らせには、「製造販売元および販売元の変更に伴い、しばらくの間は新旧製品が流通します。一部製品において現行品の個装箱に新流通バーコードシールが貼付された製品が納入されます。ただし、PTPシート、分包フィルム、バラ包装ボトルおよび添付文書等にはシール貼付の対応をしておりませんのでご了承ください」と案内している。 若林薬剤科長は、「これ意味わかりますか? かなりひどい話。うちの病院ではエパルレスタット錠50mg「VTRS」を発注すると、エパルレスタット錠50mg「ファイザー」が納品される。箱にVTRSのバーコードシールを貼って納品する“シール対応”と業界は言うが、頼んだものと中身が違う。何言っているか分からない」と指摘。講演では納品された製品(ファイザーの屋号)のPTP包装の写真を提示しながら、「新屋号で納品されているのに、中身は旧屋号だ。処方箋でVTRSと書いてあっても、患者さんには旧屋号の製品が手元にわたりますから、ファイザーになってしまう。これは製品偽装ではないのか」と大いに問題視した。 ◎「販売名変更および包装変更のお知らせ」は正確な情報提供ではない 製薬企業が行った情報提供の別事案として、「販売名変更のお知らせ」についても問題視した。若林薬剤科長が指摘したのは「販売名変更および包装変更のご案内」と題する文書で、ビクロックス点滴静注125mg、250mgが、アシクロビル点滴静注125mg、250mg「MEEK」に販売名を変更するという事例。「これは販売名が変わるというだけのものでない。院内に2剤が同時に存在する瞬間がある。新規採用と採用取消の作業が必要になる。その手続きだけでも相当の時間を要する。製薬企業のいう単にAをBに変更するのでなく、Bが薬価収載され、Aを経過措置にするというものだ。正確な情報提供が行われていない」と批判した。 ◎「販売中止のお知らせ」にはGS1コードの記載を また別の事例として、「一部包装販売中止のお知らせ」の文書にも触れ、ここに「GS1コード」の記載のないものがあることを問題視した。2019年の改正薬機法では21年8月から医療用医薬品の添付文書は電子化されたものの閲覧を基本とした。また経過措置として23年7月から紙媒体による添付文書の同梱は終了することになっている。これに伴いGS1コードの掲載が重要視されている。若林薬剤科長は、「薬品マスタ作成にはコードが必要だ。製薬協もあれほどGS1コードが大事だといっている。(製薬企業が配布する)お知らせにはGS1コードを載せて欲しい。正確な情報が提供されていないことになる」と述べ、理解を求めた。

製薬協・医薬品評価委員会データサイエンス部会は8月29日、DCT(分散化臨床試験)の導入状況等に関する調査結果を公表した。部会登録企業から回答を得たもの。DCT実施企業は6社(11.3%)。DCTの実施を検討した企業まで含めると25社(47.2%)に及んだ。DCTへの期待が高まる背景について、ePRO/eCOA等の手法を用いたデータ収集経験があることや、多くの団体・企業等からDCTに関する成果物が公開されていることがあげられた。このほか新型コロナの感染拡大で、被験者が医療機関に来院できないことや、従来通りの方法で治験薬を提供できない中で臨床試験を継続する手法としてDCTが注目されていることも指摘した。 DCT(Decentralized Clinical Trial)とは、分散化臨床試験と呼ばれ、被験者の医療機関への来院に依存しない臨床試験と定義される。欧米のグローバルファーマを中心に国際共同治験においてDCTを活用することが近年増加しており、製薬協もDCTの導入および活用手法の検討(20年9月)や、DCTの日本での導入の手引き(21年7月)などの検討を行ってきた。 ◎DCT「経験あり」6社、「途中で断念」2社、「導入作業中」17社 製薬協データサイエンス部会はDCT の導入状況等に関するアンケートを実施した。回答期間は21年11月24日~12月21日。部会登録会社 65 社中 53 社(外資系企業:16 社・30.2%、内資系企業:37 社・69.8%)から回答を得た。DCTの実施経験については、「経験あり」が6社(11.3%)、「検討したが途中で断念した」が2社(3.8%)、「検討中もしくは導入作業中」が17社(32.1%)あった。「導入する予定なし」は28社(52.8%)だった。 ◎ePRO/eCOAの「導入経験あり」33社・62.3% 導入検討含めると7割超え DCTの実施有無に関わらず、DCTに関連する各手法の導入経験を調査したところePRO(電子患者報告アウトカム)/eCOA(電子臨床アウトカム評価)の「導入経験あり」が33社(62.3%)で最も高く、「これまでに各手法の導入検討を行った」と回答した企業を含めると、41社(77.4%)となった。 ◎インターネット介した被験者募集、DDC、eConsentは半数以上の企業ですでに実施済 このほか導入を検討した手法では、インターネットを介した被験者募集が34社(64.2%)、DDC(データ入力端末またはEDCシステムに原データを直接入力)は30 社(56.6%)、eConsent(電子版同意説明文書)は28 社(52.8%)がそれぞれ実施しており、半数以上の企業が導入を検討していることが分かった。一方、ウエアラブルデバイスは23 社(43.4%)、在宅診療は22 社(41.5%)、オンライン診療は21 社(39.6%)がそれぞれ実施していた。 ◎規制要件や医療機関の受入れ等「DCT導入のハードル一つ一つ下げていくことが必要」 この結果についてデータサイエンス部会は、「タブレット、スマートフォンなどを利用した臨床試験の実施やデータ収集に関する手法に関心が高いこと、特にePRO/eCOAは、一般的な手法になってきているのでは」と指摘。インターネットを介した被験者募集はDCT以前から、「治験の効率化等でベンダーによるサービスが開始されており、他の手法より歴史が長いことから、導入経験および導入検討をしている企業が多いのではないか」と強調した。 一方でオンライン診療や在宅医療については、「新型コロナウイルス感染症の拡大により、オンライン診療・電話診療の拡充という時限的緩和措置により、DCT導入に向けた検討を進めている企業が増えていると推測される」と分析した。 今後の対応については、「規制当局、医療機関、治験依頼者、サービスベンダーが一丸となって、規制要件や医療機関側の受け入れ、社内手順やコストメリットなどのDCT導入のハードル一つ一つ下げていくことが必要となるだろう」と見通した。

厚生労働省の城克文医薬産業振興・医療情報審議官は本誌インタビューに応じ、「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」の立ち上げを前に、「製薬業界には、“経営が厳しい”と訴えるだけではなく、ファクトや実態をお話いただき、それが薬価制度に起因しているというならどの仕組みとどういうつながりか、教えていただきたい」と強調した。有識者検討会では“国民目線”で議論を行う考えを強調。「趣旨に合わないプレゼンテーションはスルーされるだけだ」と指摘した。また、製薬業界は中間年改定を最大の焦点に据えるが、「もしされるのであれば、中間年改定の実施により、国民に対してどのような悪い影響が起きるのか、直すために中間年改定をどうしてほしいか、ファクトベースでロジカルにお話いただくのがよいのではないか」と話した。